「脂質」の特性と役割
「脂質」と聞くと、肉の脂身やラードのようなコッテリとした脂分を想像してしまい、
「カロリーが高いので、あまり摂取しない方がよい」など、あまり良くないイメージを持っている方が多いかもしれません。
しかし!
「脂質」は6大栄養素のひとつで、身体活動のエネルギー源としての役割をはじめ、その他にも非常に重要な働きがあるんです。
この記事では、「脂質」の重要な役割や「一日にどのくらいの量を摂取すればいいの?」といった疑問にお答えしていきます。
脂質の役割
脂質には次の3つの役割があります。
①分泌物質の体内合成
コレステロールは、生体で作られる重要な物質で主に脂質が原料となります。一定量までは「炭水化物」などから作られますが、それで全てを補うことはできません。なので、成長期などに極端な脂質の摂取制限をすると、身体の成長に影響が出てしまったり、肌や皮膚の異常、神経伝達機能に障害が生じる可能性もあります。
②脂溶性ビタミンの運搬、吸収
ビタミンA、D、E、Kは脂溶性ビタミンと呼ばれ、水ではなく油に溶けやすいビタミン類です。それらのビタミンを効率よく摂取するには、脂質を含む食品と合わせて摂ることでが効果的です。逆に言えば、一定量の脂質の摂取がなければ、これら脂溶性ビタミン類をいくら摂ってもビタミン欠乏を引き起こす可能性があると言えます。
③食事に満足感と楽しみを与える
やはり、脂分を豊富に含んだ食物はおいしく感じるものです。脂ののった肉や魚、そして揚げ物。食べたときの満腹感は捨てがたい幸福ですね!さらに、脂っこい物は消化が遅いので腹持ちが良く、他の食品に比べ満腹感が持続します。
脂質の性質
- 脂質は体内で、エネルギー源として必須の栄養素です。脂質が産生するエネルギーは糖質やたんぱく質の約2倍カロリーに当たる9kcal/グラムで、熱量が高く長時間の活動に適したエネルギー源といえます。
- 脂質は皮下や腹腔に蓄えられ、体温を維持する機能があります。また、外部からの衝撃から体を守る役割も担います。体内で利用されない分は脂肪細胞内に蓄えられるために、過剰に摂取すると肥満の原因にもなるので、適量の摂取を心がけましょう。
脂質の種類
脂質の大部分を占める成分である脂肪酸は、炭素(C)、水素(H)、酸素(O)からできて、炭素結合のしかたで大きく2種類に分類されます。分子構造と聞くと、何か難しそうですが、「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」の2種類に分類され、体内でもそれぞれ違った働きをします。
【脂肪酸の種類】
- 飽和脂肪酸
- 不飽和脂肪酸
①飽和脂肪酸とは
飽和脂肪酸は、肉の脂身や乳製品、バター、ラードなどの動物性脂肪に多く含まれています。分子的には、鎖状につながった炭素結合に二重結合がない脂肪酸をいいます。融点が高く、一般的に固形で常温でも固まっているものが多い。体内では、中性脂肪やコレステロールなど血液中の脂質濃度を上昇させる作用があり、血液中に増えすぎると動脈硬化や高脂血症の要因になります。
②不飽和脂肪酸とは
不飽和脂肪酸は、飽和脂肪酸より融点が低くいので、常温では液状で、植物油に多く含まれています。不飽和脂肪酸の分子内には、炭素同士が二重結合している部分があり、二重結合が1カ所のものを一価不飽和脂肪酸、2カ所以上のものを多価不飽和脂肪酸といいます。
一価不飽和脂肪酸
代表的なものには、オリーブ油などに含まれるオレイン酸があります。オリーブの代表的な産地である地中海沿岸において心疾患による死亡率が低いのは、食生活にオリーブ油を多用しているから、といわれています。一価不飽和脂肪酸は他の脂肪酸に比べて酸化しにくいので、有害な過酸化脂質をつくりにくいという特長があります。
【代表的な一価不飽和脂肪酸】=「オレイン酸」
オレイン酸は、オリーブ油などの植物油に多く含まれています。血中の悪玉コレステロールを減らして、胃酸の分泌を調整したり、腸の運動力を高めたりする働きがあります。植物油のほか脂やラードにも含まれ、これらの動物脂には飽和脂肪酸も含まれることから摂り過ぎには注意が必要です。
多価不飽和脂酸
多価不飽和脂酸は、体内では合成されないか、あるいは合成されにくい脂肪酸です。細胞膜やホルモンの原料となります。体にとっては不可欠な脂肪酸であることから、必須脂肪酸ともいわれています。
多価脂肪酸の分子を構成する炭素原子のうち、末端から6番目が最初の二重結合をしているものをn-6系脂肪酸、また、3番目に二重結合があるものをn-3系脂肪酸と呼びます。
代表的なn-6系脂肪酸
【リノール酸】
サフラワー油などに含まれています。血中の悪玉コレステロール値を下げると同時に、血圧を下げる効果もあります。ただし、酸化されやすいため、保存や料理に使う際は、ひと工夫すると良いでしょう。
【アラキドン酸】
肉、卵、魚などに多く含まれます。体内において、免疫系の機能や血圧を調整する機能があります。ただし、これらの脂肪酸は摂り過ぎてしまうと、善玉コレステロールの減少を起こすことによって、動脈硬化やアレルギーを引き起こす原因にもなるので、最適な摂取量を心がけてください。
代表的なn-3系脂肪酸
【αーリノレン酸】
ごま油やクルミ、シソ、エゴマなどに多く含まれ、体内でDHAやEPAに変換されてアレルギーなどを予防する効果があります。また、血液の流れをよくしたり、高血圧を予防する働きもあります。
【EPA(エイコサペンタエン酸)】
魚の脂肪に多く含まれています。血液の状態を健康に保ち、血栓ができにくくしたり、高脂血症を予防することから、動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞を予防するという働きが期待されています。
【DHA(ドコサヘキサエン酸)】
DHAは、EPA同様、魚の脂肪に多く含まれています。DHAは、脳や網膜などの神経系に豊富に含まれている栄養素であることから、DHAを摂取すると「頭の働きがよくなるのでは?」といった期待から、一躍有名になりました。
コレステロール
体内に存在する脂質の一種で、人間の血液中だけでなく、脳、内臓、筋肉など全身に広く分布しており、細胞膜、性ホルモンや副腎皮質ホルモン、脂肪の消化吸収を助ける胆汁の材料になります。また紫外線を浴びることによって、体内でビタミンDを作り出す前駆体となる重要な物質です。
コレステロールはレバー、卵、魚卵、ウナギ、イカなどに多く含まれています。肝臓や小腸などで作られたコレステロールは、血流に乗って全身に運ばれます。コレステロールは、不溶性脂質なので、タンパク質と結合し、水に溶けやすい状態に形を変える必要があります。この時にコレステロールを全身に運ぶ役割を担うたんぱく質をLDLといい、一方で、体内で余ったコレステロールを回収して肝臓に運び、胆汁やホルモンとして再生させるタンパク質をHDLといいます。LDLが多くなると、動脈硬化などを招く原因になるので「悪玉コレステロール」、一方でHDLは血管内をきれいにするので「善玉コレステロール」と呼ばれています。コレステロール値を問題にするときは、LDLとHDLを区別して考える必要があります。
脂質の正しい摂取方法
一口に「脂質」といっても、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸、更に不飽和脂肪酸には、n-9系の一価不飽和脂肪酸、n-6系の多価不飽和脂肪酸、n-3系の多価不飽和脂肪酸があることが解りました。どの脂肪酸も何らかの形で健康に役立っています。大切なのは特定の脂肪酸に極端に偏ることなくバランスよく摂取することです。
では、どの様な目安で摂取すればいいのでしょうか。「食事摂取基準(※1)」によると、脂質の摂取量に関して、総脂質量、飽和脂肪酸量、n-3系脂肪酸、n-6系脂肪酸の摂取量が、それぞれ定められています。
脂質の食事摂取基準(目標量)
成人男女総エネルギーの20~30%未満が目標です。
n-6系脂肪酸の食事摂取基準(目安量)
成人男性8~11g/日
成人女性7~8g/日
n-3系脂肪酸の食事摂取基準 (目安量)
成人男性2.0~2.4g/日
成人女性1.6~2.0g/日
食品でとる場合の目安
冷やっこ(100g) 約3g |
納豆(1 パック50g) 約5g |
鯛の刺身(80g) 約9g |
食パン(1 枚) 約3g |
鶏モモ肉 照り焼き(80g) 約15g |
マヨネーズ(大さじ1) 約9g |
マグロ(赤身50g) 約2g |
マグロ(とろ50g) 約12g |
マーガリン(大さじ1) 約11g |
ポテトチップス(1 袋) 約30g |
ポテトサラダ(1 人前) 約15g |
ほうれん草ゴマ和え(1 人前) 約3g |
ハンバーガー(1 個) 約20g |
ノンオイルドレッシング(大さじ1) 0.5g 以下 |
とんかつ(ロース90g) 約36g |
ドレッシング(大さじ1) 約6 g |
トマトケチャップ(大さじ1) 0.1g 以下 |
ちらしずし(ごはん200g) 約5g |
たこ刺身(80g) 1g 以下 |
たい焼き(1 個) 約1.5g |
ショートケーキ(1 個) 約15g |
さんま塩焼き(1 尾) 約19g |
クロワッサン(1 個) 約10g |
カレーライス(1 人前) 約26g |
おにぎり(1 個) 約1g |
おかき(30g) 1g 以下 |
いちごジャム(大さじ1) 0.1g 以下 |
あじ塩焼き(1尾) 約1g |
(※1)食事摂取基準とは
食事摂取基準とは、国民の健康の維持・増進を図るために、エネルギー・栄養素欠乏症の予防、生活習慣病の予防、過剰摂取による健康障害の予防を目的として、厚生労働省が策定している食事で摂取するべきエネルギーや栄養素の量の基準のことです。2009年からは消費者庁に管理が移管されています。5年ごとに策定され、現在では、2020年版が最新のものになっています。たんぱく質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルなどの栄養素について、過不足なく摂取できるとされる平均的な量や、それ以上摂ると生活習慣病につながる恐れがある量(耐用上限量)が設定されています。