プラセンタとは
プラセンタ(placenta)とは、哺乳類の胎児を成長させるための胎盤のことです。主にサプリメントや化粧品に利用されるのは、馬や豚、ウシ、ヒツジなどの動物由来のプラセンタです。最近では、植物の胎座から抽出される植物由来のプラセンタも広く利用されるようになりました。
プラセンタ(胎盤)には、アミノ酸、たんぱく質、糖質、ビタミン類、核酸、ペプチド、ムコ多糖類などの成分が豊富に含まれています。また、プラセンタには、胎児が育っていくための成長因子が豊富に含まれています。成長因子とは、細胞分裂を活性化させる因子のことです。成長因子が細胞を刺激することで、新陳代謝が活発になると考えられています。プラセンタにはこの成長因子の働きを促す働きがあるため、美容や健康に効果があるといわれています。
プラセンタの歴史
プラセンタの効果は古くから世界中で注目されており、特にアンチエイジングや肌を美しくする効果が認められています。
プラセンタはクレオパトラや楊貴妃、マリー・アントワネットが美容に愛用したとか、秦の始皇帝が不老不死を求めて使ったと言い伝えられていますが、確たる文献に基づいた史実ではありません。史料にプラセンタの名が初めて登場するのは、739年、唐代の中国『本草拾遺』(ほんぞうしゅうい)の記述になります。
現代においては、プラセンタは、旧ソ連のオデッサ大学教授で眼科医であったV. P. フィラトフ(1875 〜1956)が1920年代に研究を進めた組織療法に端を発します。フィラトフは、埋没療法を実験し、疾病の治癒にはプラセンタを使うと高い成果が得られることを見出しました(1)。日本においては、江戸時代に、加賀藩御用達薬種商であった中屋彦十郎薬舗の昆元丹(こげんたん)に、漢方薬と一緒にプラセンタが処方され、民間薬として使われていたとの記録が残っています。
プラセンタの効果
プラセンタは、細胞レベルから肌の環境を整えます。しわやたるみ、毛穴の開きなどの肌トラブルを防ぎ、美しい肌へ導く効果が期待されています。
プラセンタには、以下の効果が報告されています。
- 更年期障害やうつ病・不安を減少
- 更年期障害による女性の肩こりに効果
- 男性の性機能障害
- 肝機能の改善
- シワの減少効果、角質水分量の増加
- 疲労倦怠感、肩こり、関節痛、目の疲れ、食欲不振など疲労症状の改善
- 口の粘り、噛み合わせの痛み、歯肉出血の改善
- メラニンの生成を抑え、シミ・ソバカスを防ぐ美白効果
- 皮膚炎症の改善効果、美肌効果
- アトピー性皮膚炎の改善
プラセンタの有用性の報告
- 豚のプラセンタ抽出物のサプリメントを使った試験では、更年期指数(SMI)やうつ病・不安の指数を減少させ、疲労感や関節痛を緩和する作用が確認されています[2]。また、同様の試験で、更年期障害による女性の肩こり、男性の性機能障害、肝機能の改善に効果を示しました [3] [4]。
- ヒトプラセンタでは、疲労倦怠感、肩こり、目の疲れ、食欲不振など疲労症状の人を対象として、半数以上に有効性が認められました[5]。
- 解決しにくい、歯周治療中の不定愁訴を訴えるグループで、豚プラセンタエキスは口の粘り、噛み合わせの痛み、歯肉出血について有意に改善させ、歯肉のそう痒感についても改善しました[6]。
- プラセンタは、効能の承認を得ている原料では「メラニンの生成を抑え、シミ・ソバカスを防ぐ」を強調表示することができます[7]。
- 2016年の試験では、プラセンタの摂取が、皮膚のきめ・毛穴・発赤部分において改善効果を認める報告もあり、皮膚炎症の改善効果やメラニンの生成抑制効果の可能性があることが示されています[8]。
- 肌は、一定のサイクルで新しく生まれ変わります。この一連の肌の代謝を「ターンオーバー」とよびます。このターンオーバーのサイクルが乱れると、肌トラブルの原因になり、肌荒れやニキビ、吹き出物などが発生します。プラセンタは、ターンオーバーを促進させる効果があることが示されています。
- 老化架橋とは、中高年になりコラーゲンの生成が衰え、古いコラーゲンが分解されずに余分な架橋としてどんどんつくられることを指します。この余分な老化架橋が増えると、肌の組織が硬くなり、皮膚の水分が失われてシワの原因となります。プラセンタは、細胞傷害の原因となる活性酸素の一種であるスーパーオキサイドを低減し、しわの原因となる老化架橋の形成を抑制する効果もあることから、プラセンタは有望な抗老化素材であるとする報告があります[9]。
プラセンタの副作用
現在、プラセンタを原材料とした多くの医薬品や、サプリメント、化粧品などの製品が作られています。医薬品は、開発から販売までは、様々な基礎試験、臨床試験、治験が行われ、その有効性について国が承認したもので、確かな効果が期待できます。
プラセンタは、比較的副作用が少ない製剤ですが、医療機関などで注射などをする場合、下記のような点が確認されています。
- 注射部位の疼痛
- 過敏症(発疹・発熱・掻痒感など)
- 注射部位の硬結
- 頭痛
- 肝機能障害(AST,ALT 上昇など)
また、アレルギー体質の患者へは慎重投与となっています[10]が、併用禁忌薬は特に挙げられていません[11]。医療機関で使用されているプラセンタ注射薬は、人の胎盤を原料とし特定生物由来製品に指定されています。 特定生物由来製品は、その製造工程から市販後まで様々な安全対策が取られていますが、現状の製造工程で取り除けない未知のウイルスや病原体の存在を完全に否定はできず、感染症などのリスクはゼロとは言えません。 現在、日本でのプラセンタ注射薬による感染症の報告はありませんが、プラセンタ注射薬を打つ際には同意書を書く必要があります。
プラセンタサプリメントや、化粧品においては、購入の際に、原材料と産地を確認することや、SPFや日本健康・栄養食品協会(JHNFA)などの基準を満たしているか、などを確認して選ぶと安心です。
プラセンタ100
【参考文献】
(1) プラセンタ療法と統合医療
http://jplaa.jp/pdf/tougou.pdf
(2) Koike, K.; Yamamoto, Y.; Suzuki, N.; et al (2012). “Efficacy of porcine placental extract on climacteric symptoms in peri- and postmenopausal women”. Climacteric 16 (1): 28–35. doi:10.3109/13697137.2012.696290. PMID 22920723.
(3)Koike, K.; Yamamoto, Y.; Suzuki, N.; et al (2012). “Efficacy of porcine placental extract on shoulder stiffness in climacteric women”. Climacteric 16 (4): 447–452. doi:10.3109/13697137.2012.720622. PMID 23113540.
(4)江水保「プラセンタエキス含有ドリンクの性欲および性機能改善効果」『診断と新薬』第48巻第8号、2011年8月28日、 793-801頁。
(5)蜂矢敬彦「不定愁訴症例に対する胎盤成分(K・PE)の内服効果―ビタミンB1内服との比較臨床試験」『薬理と治療』第8巻第2号、 474-486頁。
(6)清水洋利、久保田恵、中西宏彰「歯周治療中の不定愁訴に対する胎盤抽出成分配合サプリメントの効果」『日本統合医療学会誌』第4巻第1号、2011年7月、 51-55頁。
(7)三井幸雄「凍結酵素抽出法を用いたプラセンタエキスの化粧品への応用 (特集 化粧品新素材と原料の新知見(1))」『Fragrance journal』第47巻第3号、2019年3月、 69-72頁。
(8)伊藤公美恵、植竹達雄、斉藤浩二、飯島肇「プラセンタ化粧品の肌への効果 (予備検討試験として)」『臨床医薬』第32巻第7号、2016年7月31日、 593-601頁。
(9)安井裕之、原口知子、望月彩音、石川裕樹、小松靖彦「新規プラセンタエキスの抗老化素材としての評価」『フレグランスジャーナル』第44巻第4号、2016年4月、 36-45頁。
(10)メルスモン 添付文書 メルスモン製薬株式会社 医薬品情報データベース、2016年10月19日閲覧
(11)ラエンネック 添付文書 株式会社日本生物製剤 2016年10月19日閲覧